片麻痺性片頭痛を学ぶことは、片頭痛を学ぶ上で非常にためになる。
片頭痛とは、単に頭痛をさすのではなく、予兆、前兆、頭痛およびそれに伴う嘔気や過敏症状などの随伴症状、頭痛後の回復期を含めた一連の症状をさす病態である。
J.N.BLAU LANCET 1992 339 P1202
その中で、前兆をともなわないものもあれば、前兆だけで頭痛を伴わないもの
もあるが、これらはいずれも片頭痛である。
その中で前兆と言うのは、閃輝暗点などの視覚陽性および陰性徴候、ちくちくした陽性感覚徴候や、感覚が分かりにくくなる陰性感覚徴候、言葉が思いつかなかったり、発語できなかったり、言葉が理解できなかったりといった失語性言語障害があるが、片麻痺性片頭痛ではこれらの他に手足や顔などの体の一部が動きにくくなる陰性運動徴候も認められる。また、両側性の視覚症状や
構音障害やめまいなどの脳底型の徴候なども伴う事が多く比較的複雑である。
この前兆を深く学ぶということは、片頭痛の理解に重要なことではないかと感じる。
片麻痺性片頭痛にはしばしば、背景に慢性片頭痛を伴い、片麻痺性片頭痛を理解する
ことは慢性片頭痛を理解することでもある。また慢性片頭痛を理解するためには
以前からあるmigraine equivalentやその頭痛発症のきっかけとなった
precipitating factor、また各発作の誘因となるtriggerなどの背景を捉えること
のみならず、慢性連日性頭痛の背景に隠れている睡眠時無呼吸、
髄液圧異常、頸部異常などを鑑別しておくことが肝要である。
また、片頭痛においても睡眠と頭痛は
密接に関連しており、睡眠不足、睡眠過多は片頭痛の引き金になる
し、片頭痛が起こると眠たくなる。また、睡眠はRestless legs syndrome
の観点からも興味深い。ナルコレプシー症例で片頭痛が多い
という報告もある。睡眠と片頭痛の関係を解明することは
視床下部を含めた神経機能の解明につながる可能性があるし、
逆に睡眠のマネージメントは片頭痛のマネージメントにもつながる。
つまり睡眠と片頭痛はきってもきりはなせない。さらに月経、子宮内膜症
その他女性ホルモンに関連した婦人科的問診も欠かせない。このあたりの
患者背景については、うつなどの精神医学的な分野も含めて広範囲にわたり
聞き取りをして把握する必要がある。
また、片麻痺性片頭痛に限らず、慢性片頭痛では時に眼球充血や流涙などの
自律神経症状をともなう事が(TACsのみならず片頭痛でもcranial autonomic symptoms
を認めることがある)あるが、それらの聞き取りとともに片頭痛随伴症状
である、嘔気、嘔吐、光音におい等の過敏症状、労作による頭痛の増悪やめまい感、だるさ、lightheadednessなどをよく聴取する必要がある。
*lightheadednessについては2013.10.25記事参照
興味深いことに稀な疾患である片麻痺性片頭痛は、同じく稀な疾患であり、
自律神経症状と短時間の片側頭痛を特徴とするSUNAや
その亜型であるSUNCTの合併が比較的多いことから、実は同じ機序に由来するのでは
ないかという報告もある。
確かに片麻痺性片頭痛は稀な疾患であるが、実は診断されていない
症例が少なからずあるのではないかと感じている。
もちろんはっきりとした麻痺がでて脳梗塞との鑑別が必要となるような
症例は少ないかもしれないが、hemiplegiaではなく
軽度のweaknessで一過性の症例でかつ、頻度が少ない症例など
は患者さん自身もそれほど意識していない可能性もある。
また、TIAやsomatoform disorderとの診断が
実は片麻痺性片頭痛であるケースも
多いのではないかと思う。英国でも
実際そのようなケースは時々あるようである。
*残念ながら、一般的に頭痛臨床についてはすべての医師が
精通しているわけではない。聞くところによると、たとえ神経内科医や脳外科医で
あったとしても、二次性頭痛(脳腫瘍や脳出血などによる頭痛)
の除外はできても、正確な頭痛の診断やマネージメント
ができるとは限らないとのことである。また片麻痺性片頭痛
などの稀な頭痛は知らない医師が多いそうである。知らない疾患は
絶対に診断できないだろう。英国でも、複数の医師や
神経内科で、精神的なもの、一過性の脳虚血などとして
扱われ、片麻痺性片頭痛という診断にたどり着くまでには
相当の期間がかかっているケースがあるそうである。患者側としても
何度か異常がないと言われれば、そこで受診をあきらめて
しまうケースもあるだろう。片麻痺性片頭痛にはそういった
難しさが常に伴う。
とりとめもないことを、思うままに書いてしまったのでまとまりのない内容に
なったが、本当にいろいろと勉強することは多いし、学ぶことも多い。
そして何より頭痛と言うのは、どこまで行っても奥が深い。
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留学先の病院から徒歩5分のところに大英博物館
がある。いつでもいけるのだが、数回しか行っていない。
今日、たまたま同じ研究室の若手で
昼休みに一度行ってみようということになった。 |
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しばし観光客気分を味わう。入場料が無料なのがいい。
30分ほどして病院にもどった。 |
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帰宅。地下鉄の駅にムンバイ行きの航空便の広告が
出現した。結構目立つ。
金曜日の夜に酔っ払いが多いのは
世界共通なのか。 |